こんにちは。
今日はローマコインの偽物の見分け方について解説していきます。※ローマコインと書きますがギリシャやその他古代コイン全てにあてはまります。
ここで言う偽物とは近代において一般人を騙す目的で作られた偽物を指しますが、広義の偽物のローマコインは既に古代ローマ時代に存在していました。まずはこれらについてかんたんにお話しておきます。
古代ローマ時代に作られた偽物のコイン
古代ローマ時代に存在した偽物のコインには2種類あり、ひとつは造幣局に勤める人間がこっそり公式の金型を使用(私用)して鋳造した物で、コンスタンティヌスの時代には皇帝自らが「帝国の造幣局には秘密裏に偽造貨幣の鋳造に従事している者が居る。そのような者は法廷に引きずり出される事を誰もが知るであろう。拷問によって彼らの共犯者をも探し出し適切な罰を宣告しなければならない。」と述べています。
公式の金型を使用しているので、いわば”本物”です。正確には”許可を得ずに私的に作られた本物”とでも言いましょうか。考えてみてください。日本の造幣局に勤める人が夜中にこっそり自分の職場に忍び込んで勝手に500円玉を量産したら・・・でもそれが社会に出回ったとして公式に(営業時間中に)作られた500円玉か非公式に(営業時間外に)作られた500円玉かなんて絶対に見分けがつきません。何せ金型が同じなんですから。
しかしながら古代ローマ時代にこっそり公式の金型を使って作られた偽物のコインは、時にオブバースとリバースの図案の組み合わせがめちゃくちゃだったりするので運が良ければ私的に作られた物かどうかの見分けがつく事もありますが、オブバースとリバースの組み合わせがその時の流通貨幣と全く同じであればもう見分けがつきません。さっきの500円玉のたとえ話と同じ事です。
コイングレーディングで有名なNGCは自分のところでスラブに入れたローマコインについての真贋の鑑定や保証を一切していませんが、こうした見分けのつかない当時公式の金型で作られた偽物コインが存在している事も理由のひとつです。
もうひとつが「野蛮人のコイン」と呼ばれる物です。図案は稚拙で伝説もデタラメ。表裏の図案の組み合わせすらバラバラ。ぱっとみて公式の金型から作られたコインではない事が一目瞭然です。しかしローマ帝国全体であまり数は多くありませんが普通に正規の銅貨に混じって流通していた様です。出自は諸説ありますが「周辺国の人間が作ってローマに持ち込んだ」「前線の兵士に払う給料分の貨幣が足りずに現地で間に合わせ的に作らせた」と主にこの2つの説が有力です。※この記事では「野蛮人のコイン」は対象外なので説明はこの辺までにしておきます。ヤングスタンプはヤフオクに「野蛮人のコイン」も出品していますので興味があればそちらをご覧ください。
現代で作られたローマコインの偽物を見分ける
さてここからが本題。
ヤフオクだけを見ていても「レプリカコイン」と表記のある良心的な出品者はともかく、あたかも本物であるかのような匂わせ方で偽物のローマコインを出品している業者も居ます。偽物だとわかった上で1万円2万円で落札しているのであれば構いませんが、本物だと思いこんでそうした偽物を落札してしまっては目も当てられません。数万円で落札しても現代で作られた偽物のローマコインには1円の価値もありません。いざ売却しようにも1円にもならない・・・なんてことになると悲惨過ぎます。
という訳で、商品写真だけでも偽物か本物かの見分けがつく方法を伝授します。とても簡単です。
①色味
金貨は金色です。そして銀貨は銀色です。
「何を当たり前の事を・・・」と言われるかもしれませんが、偽物の金貨や銀貨は当然金銀以外の金属で作られますから、従って金貨は金色、銀貨は銀色と言う当たり前の事にすら当てはまらない物が多々あります。
ヤフオクでも偽物を本物と匂わせて出品しているコインがありますが、銀貨と言いつつ色味は全然銀ではありません。金でも銀でもない中途半端な色味の物が多いですから、これだけで即座に偽物とわかります。
ただし金貨や銀貨でも長年地中に埋まっている間に部分的にパティーナが形成され、コインの一部が青緑っぽい色味や黒っぽい色味などになる事があります。また年代によってはシルバーデナリウスであっても銀の含有量が少ないために全体が黒っぽい色の物も存在しています。全体が均等に変色するケースは銀の含有量由来で黒く変色するケースのみですからぱっと見てすぐにわかります。
銀貨に付着したパティーナの一例です。茶色の部分がそれですが、この様に部分的にパティーナが形成されそこが金色や銀色ではない、と言う事は結構あります。
これはシルバーアントニニアヌスですが鋳造時の銀の含有量が少なかった為、この様に全体が黒っぽく変色しています。
こうした本物の経年による変化とは異なり、地金の色が先に書いた様に金色でも銀色でもない・・・といった微妙な色味(しかもパティーナらしきものも形成されていない)ものは偽物です。違う金属で作られた故の妙な色味です。
②側面
古代ローマコインは「コールドストライキング」「ホットストライキング」と言う2つの鋳造方法で作られていました。長くなるのでここではその詳細は省きますが、要はひとつの金属片を、リバース図案の金型とオブバース図案の金型で挟んでから打ち付ける方式です。つまり1枚のコインは元々ひとつの金属からできています。
わかりやすく言いますと、例えば10円玉サイズのコイン状の形をした金や銀や銅の金属片に、両側から表面と裏面の図案を彫った金型をあてがいしっかりと挟み込んだ上で更に打ち付けます。すると何もなかったコインの両面に図案が刻印されて10円玉になるイメージです。古代コインの鋳造方法は全てこれです。
コールドストライキングであれば予めコイン状の円形の金属片を用意して、表面と裏面に図案を配置して金属片を挟み込んで打ち付ける事で両面に図案と伝説が刻印されます。
ホットストライキングであれば溶かした金属をコインの形をした鋳型に流し込み、ある程度冷えたところで後はコールドストライキングと同じ要領で図案と伝説を刻印します。
一方で稚拙な偽物コインは、オブバースとリバースを別個に制作して最終的にそれを貼り合わせる事で1枚のコインにしています。貼り合わせるのはコインの側面部分ですから、つまり側面を見て側面に貼り合わせた痕跡があればそれは偽物のコインだとわかります。
ネットで拾ってきたローマコイン偽物の画像ですがコイン側面が盛り上がり筋のような跡があります。側面がぷっくりと膨らんで半円を描いているのがわかりますでしょうか。※該当箇所に矢印を加えていますが、ぐるっとコインを取り囲むこの盛り上がりに注目してください。
これこそがオブバースとリバースを別で作ってから貼り合わせた跡です。本来側面はオブバースとリバースに対しては垂直でほぼ真っ平らなのが正解です。「コールドストライキング」「ホットストライキング」2つの鋳造方法のいずれであっても側面がこの様にコインを取り囲む様に盛り上がる事(ぷっくりと盛り上がり半円を描く事)は100%ありえません。この特徴があれば即座に偽物だと断定できます。このコインではその痕跡を隠すために少々研磨しているようですが、痕跡を隠すために研磨しすぎると貼り合わせが取れてしまうので、ごまかす為の研磨も限定的で側面の盛り上がり(半円になっている)を隠しきる事ができていません。
貼り合わせタイプはこの様にごまかしもできないので最も稚拙な部類に入り、最も昔から存在している、客を騙すために作られた典型的な偽物コインの特徴です。※今でもこの稚拙な贋作が出回っている、つまり作り手と買い手が居る事には驚きます。
当店が出品しているローマコインは全てこの様に側面の写真を掲載しています。
「どうして側面の写真なんて掲載しているのかな?」なんて思われた方もいらっしゃるかと思いますが、要は貼り合わせた偽物コインではありませんよという証明のために掲載しています。
先程紹介した偽物コインの側面写真との違いがわかりますでしょうか。偽物は側面の中央部分が最も膨らんでいてこれが貼り合わせの証拠です。一方で当店出品物のコインの側面は中央部分が盛り上がってはいませんし、当然貼り合わせた痕跡もありません。1枚ものの金属片から鋳造された本物である事の証明です。
先の色味と共に最も簡単に偽物コインを判別できる方法なので是非覚えておいてください。
シルバーデナリウスなど元々厚みのないコインについては貼り合わせの贋作だとしても見分けがつきにくい場合があります。そういう時は下で解説している伝説とモチーフの組み合わせで調べる事も有効ですが、オブバースの皇帝の肖像やリバースの図案そのもので真贋を見極める必要があります。
「こんなテイストの肖像あったかな?」
「こんなリバース図案あったかな?」
こうした疑問を少しでも持ったならまずは自分で調べるようにしてください。調べる際は下記で紹介しているWildwindsで調べるのが最も正確です。
③伝説とモチーフの組み合わせ
①の色味は問題なし。
②の側面も問題なし
でもこのコインは本物なのかな?
と言った場合はネット検索または文献を活用しましょう。
最低限オブバースの伝説がわかれば調べる事ができます。
例えばこれは先だって私がヤフオクに出品していたカルスのアントニニアヌスです。
商品説明のページにはオブバースとリバースの伝説も記載していますが、オブバースの伝説はIMP C M AVR CARVS PF AVGです。とりあえずオブバースの伝説と皇帝の名前さえ分かっていれば、同一または類似のコインを探す事は簡単です。
グーグル検索を使う
最も手早くできるのはグーグル検索です。
グーグルにカルスのオブバース伝説を入力して検索するだけ。検索結果で「画像」を選べばカルスのコインが色々出てきますので、同一或いは類似のコインの有無を調べます。※今回の例ではカルスでしか使われていないオブバースなので必然的に検索結果もカルスばかりになりますが、汎用的な伝説の場合様々な皇帝のコインが検索結果に表示されてしまいます。ですのでそうした場合はスペースで区切って皇帝の名前も検索欄に入力しましょう。
ここで注意しないといけないのは、グーグルの検索が全てではないと言う事です。
特に希少性の高いコインになればなるほど、検索結果に同一または類似のコインの情報が全く出てこない可能性が高まります。
ですのでグーグル検索で同じようなコインが出てこなかったからと言って即座に偽物と断定する事は避けてください。希少なローマコインともなると誰もが持っていて誰もがネットにアップしている訳ではありませんから。
Wildwindsを利用する
世界中のコレクターが利用するローマコインやその他古代コインのインターネットリファレンスでは、Wildwindsが最も詳しく情報量も最大だと言われています。
ここでカルスのページまで移動して、オブバースの伝説やリバースの伝説で同一の物があるかどうかを調べる事ができます。
かなり広範囲に網羅されていますがここも残念ながら全てをリストしている訳ではありません。大抵はWildwindsで見つかるかと思いますが、中にはこのサイトにもリストされていないコインが少なからず存在する事には注意してください。
文献をあたる
古代ローマコインをコレクションするのであれば、必要最低限の文献は持っておきたいところです。とにかく調べ物ではネット検索よりも時にかなり重宝する場面も多いですから。
上記で紹介している文献は是非とも本棚に。少々高額ですが後々まで必ず役立つ事でしょう。
図案と伝説がわかればこの様に大抵のコインは特定が可能です。
仮にスラブ入りコインの場合、商品画像では伝説まで読めないことも多々あるでしょう。そんな時は出品者や販売者に正確なオブバースとリバースの伝説が何かを尋ねてみてください。ただの転売ヤーならスラブの上から伝説を読む事すらできないと思うので恐らく返信はないかもしれませんが、もしかしたら頑張って読んで教えてくれるかもしれません。
まとめ
ここまでのやり方で少なくともある程度の偽物には騙される事がなくなったかと思います。
後はとにかく数を見る事が大事です。
しかし実物で数を見るとなると予算の都合もありますしなかなかに大変でしょうから、暇な時にWildwindsや文献などで色々なローマコインを参照し、ご自身の心の引き出しにしまっておくとそのうち役立つ時が来るかもしれません。
是非これからも楽しみながら(勉強しながら)古代ローマコインや他の古代コインコレクションをお楽しみください。
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