未洗浄ローマコインの完全クリーニング(洗浄)ガイド

目次

イントロダクション

未洗浄のローマコイン(手前)とクリーニング後のローマコイン(奥)

土の下で誰の目にも触れる事なく1500年から2000年以上も眠っていたローマコインを綺麗に掃除して現代に蘇らせる。

なんと創造的な響き。そして意義と価値のある歴史修復プロジェクトでしょうか。

市場に出回っている”既に何人(何十人何百人何千人)もの人の手で触られまくったコイン”や”鑑定に出されスラブに入れられ触れる事もできないコイン”を買い求める事を否定はしませんが、私は出土したままの状態の未洗浄ローマコインを自分の手で綺麗にクリーニングする事で、古代ローマの時代に埋められてから以降そのコインの表面に初めて触れる人間である事に何よりも喜びを感じます。プラスチックケースに収められたコインよりも直にこの手で歴史とディテールに触れられるコインが好きです。そして数万種類もあると言われるローマコインの図案を識別する楽しさも、自身の手で図案そのものをクリーニングで明らかにしたからこそひとしおです。

しかしながらローマコインのクリーニングは適当に行うとコインに取り返しのつかない傷をつけてしまったり、時に全体的な状態を大きく損ねてしまいます。そしてネットには”正しい”ローマコインのクリーニング方法についてのガイドは殆どありませんし日本語のガイドは皆無です。

こうした背景もあり「もっと気軽にこの歴史修復プロジェクトを楽しんで欲しい」との想いから、これまでに延べ数万枚のローマコインをクリーニングしてきたヤングスタンプの店主が、未洗浄のローマコインを傷をつける事なく綺麗に掃除する方法を徹底的に解説したのがこのガイドです。

是非このガイドを読んで、正しい知識とやり方でローマコインのクリーニングを楽しんでください。

そしてこのガイドはローマコインだけではなく、ギリシャやビザンチンのコインの他、数多のアンティークコインにもそのまま当てはめてお使い頂けます。

ここで解説しているのは”趣味として”ブロンズコインを最も安全にクリーニングする為の方法です。安価な道具と少しの準備で気軽に始められる事に重点を置いた内容です。

そもそもローマコインはどこから来るのか?

クリーニング後のローマコイン

古代ローマの時代には銀行や金庫といったものは存在していませんでした。

従って各家庭や一族はアンフォラと呼ばれる壺にせっせとコインを貯めて(貯金して)、それを地中に埋めて隠していました。もちろんこうした小さな規模ではなく、遺跡から大規模に見つかるローマコインもありますが、基本的に埋めて隠すというのが当時の主流だったようです。

そしてそれは戦場に出ていた兵士も同じ事。現地で給料として支払われたローマコインをジャラジャラと身に着けたまま戦いに出る事はしませんから、駐屯地や野営地付近で各自が埋めて隠していました。もちろん祖国に引き上げる際には掘り出して持ち帰るつもりでしたが、戦死した兵士が隠したコインは今も地中深くに埋まったまま発掘されるのを待っています。

さて、発掘されたコインはどういう流れで一般人の手に渡るのでしょうか。ここでは出土以降の流れを書いてみたいと思います。

STEP
一番良いものは国が接収

ローマコインを発掘したとしてもそれが全て発掘者の物にはなりません。出土したコインや遺物はまず国に届け出る必要があり、届け出されたコインは国(博物館など)がめぼしい物(歴史的に価値のある物)を接収した上で、残りが発掘者に戻されます。

STEP
卸業者が買い取り

国に中抜きされたコインは発掘者の手に戻ってきますがそれらは卸業者が買い取ります。この道ウン十年という目利き揃いの卸業者は汚れたままのコインから、価値のあるコイン(主に金貨や銀貨そして希少な銅貨など市場流通価格が下は数十万円クラスから上は数億円クラス)と一般的なコインに選別してそれぞれをコインクリーニング業者に依頼して洗浄します。※卸業者の選別は汚れたままのコインであれどかなり正確です。どんな機械或いは手段を用いているのかはトップシークレットなので知る由もありませんが、彼らは未洗浄状態のコインから超級品を確実に選別します。

STEP
コインクリーニング業者にて

卸業者が”価値がある”と判断したコインについては、プロのコインクリーナーが丁寧な手作業で1枚1枚を綺麗にクリーニングします。一方で一般的なコインは時給100円程度の低賃金で雇われた労働者が、強力な酸などの化学薬品を使ってひとまとめにクリーニングします。時には電気分解という水中に沈めたコインに通電する事で汚れを剥離させるという洗浄方法も使いますが、実際には焼かれているので黒く変色しディテールも損なわれてしまい、化学薬品洗浄と並び劣悪な洗浄方法の代名詞となっています。そんなこんなで手作業で綺麗にされた価値あるコイン、化学薬品(または電気分解)でクリーニングされた一般的なコインは卸業者に戻されます。

STEP
卸業者が再び選別

プロのコインクリーナーが手作業でクリーニングした価値あるコインは卸業者から超富裕層や各国の王族と言った所謂VIPに販売されます。一方、ひとまとめに化学薬品で洗浄されたコインは更にその下の卸業者やディーラーに販売されます。

STEP
やっとこさ一般市場へ

いくつかの卸業者やディーラーを経由したコインは最終的に小売業者に販売されます。コインを仕入れた小売業者は店頭に並べもしますし或いはネットで一般層に向けて販売します。これが普段私たちが目にするコインです。

一度一般市場に流通したコインはその後何度も人手に渡る事もありますし、或いはこのどこかの段階で鑑定機関に出され格付けされスラブに入れられそしてそれもまた一般市場で流通していきます。

稀に一般層向けのオークションでとんでもない価格のコインが出現する事がありますが、あぁいうコインはかつて卸業者からVIP層に売られた物が何らかの事情で一般市場に入ってきた物です。超富裕層や王族のコインコレクションではスラブに入ったコインは1枚もありません。ですのでこうしたコインが流通する前には必ず鑑定機関(格付けまたはグレーディング会社とも言う)で格付けされます。数百万円数千万円或いはそれ以上の金額の”鑑定されていない”コインを一般人は買わない(買えない)からです。

バルカン半島や中東或いはヨーロッパで出土したコインは基本的に全てこの流れで流通していますが、ここに大きな問題点があります。

一般の市場に流通しているコインは超高価な物を除けば殆どが化学薬品で洗浄されているという点です。これはスラブに入っていてもいなくても同じで例外はありません。現に鑑定機関では”目の前のコインの状態”については格付けしますが、どの様な洗浄がなされたか?までは見ていません(明らかに洗浄による損傷があれば別です 最近は鑑定結果のオーバースペックつまり良鑑定の大盤振る舞いが一般化しており洗浄で表面がボロボロであってもAUクラスの鑑定をジャンジャン出しています)。そして化学薬品による洗浄は酸による溶解です。パッと見綺麗に見えるコインだったとしてもコイン内部にまで染み込んだ化学薬品は、その後何年何十年か先にコインを腐食し崩壊させるかもしれないと言う潜在的なリスクを抱えています。

卸業者は当然として鑑定機関ですら、コレクターに収蔵されたコインがその後どうなるのかまで気にしていないという事です。

それに鑑定基準も実際はかなり適当です。

錆はともかくとして、明らかに化学薬品で過度に洗浄された結果表面がボコボコに崩壊したダメージコインでも鑑定結果はAU(準未使用品)です。確かに図案自体は比較的くっきり残っていますが、ここまで化学薬品で破壊されたコインを準未使用と言うには無理があります。このコインが今後どれだけ化学薬品の影響で腐食してくるかと考えると・・・貴方ならいくらで買いたいですか?私なら500円以下でも買いません。でもスラブに入ってグレードがAUというだけで数千円から数万円で売れるようになります。昨今オーバースペックなグレーディングをバンバン付与する事で儲けている顕著な例ですが、こうした質が悪いにも関わらずハイグレーディングが付与されたスラブ入りコインが昨今大量に出回っています。

一方コレクターも馬鹿ではないので「鑑定基準やコンディションについて信頼できない」という事実が徐々に認知され、ローマコインやギリシャコインのコレクターの間では「スラブ離れ」と呼ばれる考え方が浸透してきています。 PCGSやNGCは全てのコインのスタンダードでありたい様ですが、少なくともローマコインやギリシャコインでは必ずしも彼らの鑑定や格付けが正しい訳ではないという事がわかってきました。

決してPCGSやNGCといった鑑定機関を貶している訳ではありません。事実を列挙しているだけに過ぎませんし、何はなくともスラブ入りを好む人はそれで良いと思っています。要はローマコインやギリシャコインを収集するにあたってどこに重きを置くか?という価値観の話です。とは言え、ローマコインに代表されるアンティークコイン(古代コイン)を趣味の収集や投資と考えるのであれば、スラブ入りはもはや不向きだと言わざるを得ないのが残念な現状です。

冒頭にも書きましたが私はスラブ入りは欲しいと思いませんし、例えスラブに入っていなくても数多の人の手を渡ってきたコインにも手を出しません。自らバルカン半島や中東の卸業者と直接取引の契約を交わし、彼らから「一般市場流通前の出土したばかりのコイン」だけを購入して自身の手でクリーニングする道を選びました。この方法が最も良い状態(化学薬品を使われる前の最も自然な状態)のローマコインやギリシャコインを入手できるからです。しかも卸業者と直接取引なので贋作を掴まされる心配も皆無です。

何より自分が手作業でクリーニングする事で”そのコインが1500年以上前に埋められて以降人類で初めて表面に触れた人”である事に魅力を感じています。詳細な識別をすれば”そのコインを詳細に識別した初めての人”となる事もできます。同じローマコインでも既に商業ベースのルートに乗っかった物より何倍も何十倍も魅力的に感じるのは私だけかもしれませんが(*’ω’*)

因みに私はセルビアや中東諸国の現役プロコインクリーナーから未洗浄コインのクリーニング方法を学びました。プロのコインクリーナーからその技法を学んだ日本人は日本広しと言え恐らく私だけな気がします。何せマニアックな世界ですし、敢えてコインクリーニングの技法を学ぼうと言う人はそもそも少ないはずですからね(*’ω’*)

細部のディテールまで蘇らせたブロンズコイン
極美品以上にまでクリーニングしたシルバーコイン

上の2枚の画像に写っているコインはいずれも泥と汚れにまみれた状態で卸業者から買い付け、私が手作業でクリーニングしたコインです。クリーニングスキルも上達すると極美品(グレーディングで言うVFやXF)クラスを超える強烈なディテールすらこうやって蘇らせる事もできます。

これからレクチャーするクリーニング方法はプロの使うそれとは若干異なります。あくまでも安価ですぐに揃う道具で手軽にしかも安全にコインクリーニングを実践する事を目的として書いていますが、根気よくやれば細部のディテールまでご自身の手で明らかにできるようになります。是非頑張ってみてください。

コイン探索記(発掘作業の様子)

セルビアのビミナシウム遺跡近郊にてローマコイン探索と発掘の様子
金属探知機を使いながら延々歩き続けます
掘り出したコインを手に取ったらドゥポンディウスでした

当店で取り扱っている未洗浄コインは出土したての本物の未洗浄コインです。

セルビアやイスラエルなどローマコインが豊富に出土する国や地域で、コインを含む出土品を一手に取り仕切っている現地の卸業者から出土したばかりの物を買い付けする事が可能です。

現地での発掘を基本的には任せていますがコロナ禍になる前はセルビアを始めイスラエルなど、私自身も現地に赴き発掘作業に加わっていました。コロナ禍が収束すればまた足しげく通うかもしれません。

写真は私が以前セルビアに訪れた際、金属探知機を使ってローマコインを掘り出す作業を一緒に行った時に撮ったものです。※過去写真を全然整理できていませんが、今後こうした発掘風景の写真も追加掲載していきます。

オークションなどの商品ページで文字だけで「どこそこ出土です」とは書けますが、実際に現地で出土したての物を取り扱っている事を証明できればと思い写真を掲載していく事にしました。完全オリジナル写真ですから盗用対策の為に店名の透かしを入れています。尚私自身が写っている写真は個人的にあまり好きではないので、顔が写っているものは原則掲載しませんがその点はご容赦ください🌝

因みに出土したばかりの未洗浄ローマコインはいつもこの様に書留で現地から送ってもらっています。

セルビアから届いた未洗浄コインのロット
セルビアから届いた未洗浄コインのロット
セルビアから届いた未洗浄コインのロットを開封中

今まで幾度となく各地の卸業者と取引していますが未着事故は1回もありません。

流通前のローマコイングレーディング

余談ですが・・・ローマコインやギリシャコインも流通市場では鑑定機関で用いられるVFやEFなんて語句が一般的です。が、これは流通後の話。流通前のコイン、つまり前述の卸業者たちの間では鑑定機関のグレーディングは使わず、それより遥か以前から用いられている彼らのグレーディング基準が存在しています。一旦コインクリーニング業者に預けられ洗浄されたコインは彼ら独自のそれによって取引されます。

本題に入る前に彼ら卸業者が使うローマコインのグレーディングについて簡単に紹介しておきます。

コインの状態鑑定機関のグレーディング卸業者のグレーディング
全体的に摩耗していて識別が困難VG(VeryGood)Poor
全体的に摩耗しているが大まかに図案の識別が可能F(Fine)Low
一部しか摩耗しておらず図案の識別が可能VF(VeryFine)Middle
殆ど摩耗しておらず図案が詳細に残っているEF(ExtremelyFine)Good
ほぼ摩耗は見られず図案が詳細に残っているAU(Almost Uncirculated)VeryGood
摩耗は見られず図案が詳細に残っている —–ExtraGood
ExtraGoodに加えて希少性の高い図案やコイン—–MuseumQuality

だいたいこんな感じです。もちろん摩耗以外にもチェックされる点はありますが、基本的に真っ先に目に飛び込んでくる図案の状態がやはり鑑定基準の中心となります。※ExtraGoodは時に1st ClassやFull Classと呼ばれる事もあります。

最後のMuseumQualityは滅多にその存在を見る事はできませんが、状態が良いのは当然として銅貨であっても大型の物や図案が珍しい物はMuseumQualityと呼ばれます。正に”博物館に収められ展示されてもおかしくないクオリティ”のコインを指します。当然鑑定機関のAU或いはそれ以上のグレーディングコインでは足元にも及ばない美麗なコインです。

しかし昨今鑑定機関の顧客への媚びの売り様には驚きます。お金を払って鑑定してもらった結果が”Poor”だとか”Low”だとか言われれば持ち込んだ方は立腹するでしょうし致し方ないのかもしれませんが。それにしても摩耗しきったコインにVeryGoodやFineはないだろうと思います。そして近年顕著になってきたオーバーグレーディングにもただただ驚くばかり。卸業者の間ではせいぜいGoodやVeryGood程度のコインですらAUだのMSだの格付けされる様になりました。鑑定機関も商売でやってるという事はよーくわかりますが、その信ぴょう性は全くアテになりません。

鑑定も結局のところ鑑定士のその時々の”目”で変わります。以前にVFをつけた物以上の物にはEFを付けざるを得ず、以前EFをつけた物以上の物にはAUをつけざるを得ない。表面ボロボロでもMSなどととんでも鑑定すら飛び出す始末。第一MSって未使用って事ですが、1500年以上も地中に埋まっていたであろうローマやギリシャコインで未使用定義程いい加減な物もありません。ドラゴンボール現象とでも言うのでしょうか。という様な事は欧米のコインコレクターの間でも以前から随分と言われてきています。

当店はそもそも流通しているコインに興味がなく一切取り扱っていません。従って鑑定機関やコイン商との付き合いも全くありませんし今後もそのつもりは毛頭ありません。これは魚で言うと漁港で水揚げされたばかりの鮮魚を扱うか、流通に乗って加工食品へと転じた物を扱うか、ぐらいの差があります。どちらが優れている劣っていると言う話ではなく単に扱っている物が全然違う、と言う事です。

道具を準備しましょう

そろそろ本題に入りましょう。

未洗浄のローマコインを手に入れたら、これから書き記すガイドに沿ってクリーニングを実施する事をおすすめします。ここに書いている方法が最も安全でローマコインにダメージを与える事なく綺麗にできる方法だからです。

まずは最低限必要な道具を揃えてください。

ローマコインクリーニングに使う歯ブラシ、綿棒、竹串

未洗浄のローマコインをクリーニングするのに最低限必要な道具は下記の5つです。

  1. タッパー(3個)
  2. 蒸留水(2リットル程度)
  3. 硬めの歯ブラシ
  4. 綿棒
  5. 竹串

どれもホームセンターや薬局で買えるものばかりですし、面倒ならアマゾンでも揃います。

タッパーは密閉式のものを用意してください。歯ブラシは毛が硬めのものが良いでしょう。写真ではちょっとわかりにくいかもしれませんが、毛先は半分ぐらいの長さにハサミで切り落としておいてください。

実践!ローマコインのクリーニング

蒸留水に浸したローマコイン(左)
STEP
まずはブラッシング!

最初は乾いた状態のコインに付着している汚れをブラッシングで取れるだけ取りましょう。

ブラシ類

私が愛用しているブラシたち。上からPerio II H、KENT。この2本は超硬めの歯ブラシです。そして木の柄のブラシは無印良品で売っている毛の柔らかい多目的ブラシ。

この3本を駆使して表面の汚れをできるだけ落としましょう。毛が硬い方が汚れが落ちやすい様に思うかもしれませんが、案外そんな事もありません。ですので毛の柔らかいブラシも適宜使ってみてください。

STEP
ぬるま湯で洗う

乾いた状態でのブラッシングが終わったら、1枚1枚のローマコインにまだ付着している汚れがどの程度のものかを把握しましょう。

風呂場などで洗面器にお湯を張り、ローマコインをそっと入れてください。その時食器用洗剤を数滴お湯に混ぜておけばより効果的です。

10分〜20分置いた後で1枚1枚取り出して流水の下で歯ブラシでこすります。食器用洗剤を使った場合は洗剤が残らないように注意してください。

そこそこ力を入れてゴシゴシとこすっても大丈夫です。

STEP
乾かす

洗ったローマコインは風通しの良い場所に24時間程置いて乾かします。両面乾かす必要があるので適宜裏返してください。

STEP
汚れの度合をチェックする

コインが乾いたら汚れの程度をチェックします。

左から汚れの激しいもの、うっすら図案が見えているもの、ほぼ図案が見えているもの

こんな感じで、汚れの激しいもの、薄っすらと図案が見えているもの、ほぼ図案が見えているものの3グループに分けてください。

STEP
蒸留水に漬ける

グループ分けしたコインごとにタッパーに入れ、ヒタヒタになるまで蒸留水を注いでください。

蒸留水に浸したローマコイン

この様にローマコインが完全に水没するまで蒸留水を注ぎます。そしてタッパーに蓋をして、ひとまず1週間放置しましょう。

尚、蒸留水に漬ける事によって汚れが自然に剥離してくる場合がありますが、その時は蒸留水が汚れるので適宜交換してください。ですので1週間放置とは書いていますが日に1回はタッパーの蓋を開けて蒸留水が汚れていないかどうかチェックしてください。

STEP
歯ブラシでクリーニングする

1週間経ったらタッパーからコインを1枚づつ取り出して歯ブラシでこすります。

汚れが飛び散るかもしれないのでウエスなどの上でやるのが良いかもしれません。

クリーニング中のローマコイン

この時、竹串や綿棒でもこすってみてください。

汚れが蒸留水によって柔らかくなっているなら竹串でごそっと落ちるかもしれません。また綿棒でこする事で落ちる汚れもあります。

これらを使いこなしてゴシゴシとクリーニングし、ある程度汚れが落ちたのではないかと思えたら風通しの良いところに24時間置いて乾燥させましょう。

乾燥させてからコインをチェックし、満足の行く結果が得られて無ければStep4に戻ってください。後は延々Step4とStep5の繰り返しです。

以上が未洗浄ローマコインの基本的なクリーニング方法です。

この作業で最も必要になるのは”忍耐”です。

汚れが軽微なものは近いうちに図案が見えてくるでしょうし、汚れがひどいものは年単位の時間がかかるかもしれませんが、この作業は気長にやるというのが最もローマコインに与えるダメージが少ないです。

クリーニング終了の目安

ローマコインのクリーニングの終了地点は、貴方がどこまで綺麗にすれば満足するのか?という点に尽きます。

貴方がクリーニングの結果に満足した時がそのコインのクリーニング終了となりますが、ひとつの目安としては細部まで識別できる事という点になろうかと思います。

2枚のクリーニング済みローマコイン

上の画像は2枚ともクリーニング済みのローマコインです。

左側のコインはまだ汚れが残っていますが、それでも細部は明らかになっているので十分に識別は可能です。一方で右側のコインは汚れが全く無い状態にまでクリーニングされています。

どちらが良いのか?については完全に個人の好みの問題ですが、歯ブラシと綿棒それに竹串では左側のコインのレベルにまでしか綺麗になりません。

右側の”汚れが何もない状態”にまでクリーニングする為にはより高度な技術が必要になってきますが、やるだけの価値はあるかもしれません。細かなディテールが残ったコイン程、より綺麗にする事で美術館に所蔵されるレベルの美麗さを取り戻す物が多々ありますから。

ただし全く汚れがない状態にまでローマコインをクリーニングする為には、かなりの熟練したスキルと根気が必要になります。

更にクリーニングする場合

全く汚れがない状態にまでクリーニングしたいという場合は、別途更に機材が必要になります。

因みに私は蒸留水の工程は全て飛ばし、未洗浄コインのクリーニングはいきなりこの段階から行っています。最初にざっくりとブラシで汚れを落としたら後は実体顕微鏡とツール類で仕上げまで一気に行います。”全く汚れがない状態にまで”と書きましたが、適宜汚れを残したまま仕上げる時も同様に最初から実体顕微鏡を使っています。

蒸留水から入る工程はあくまでも入門編であり、実体顕微鏡を使った工程は中級上級編と言うような塩梅になります。

必ず必要になる実体顕微鏡

実体顕微鏡は必須です。これなくして肉眼のみで完璧なクリーニングは不可能です。

ツールに関しては自身で色々と試して見て好みのツールをチョイスしてください。

硬め~柔らかめまで各種ブラシ

私の場合はまずブラシ類。これらは実体顕微鏡でのクリーニングに入る前の簡易清掃及び実体顕微鏡を使ってのクリーニング中などあらゆる場面で使っています。左から超硬めの歯ブラシの毛先を乱切りした物、硬めの歯ブラシの毛先を乱切りした物、ナノブラシ、無印良品の多目的ブラシです。ブラシは硬めから柔らかめまで各種揃えておくと重宝します。

ピンバイスに装着した鋭利なピン

続いては実体顕微鏡を使ったクリーニングで最も使用頻度の高いツール類です。左から3本は先端をダイヤモンドコーティングしたピンで分厚い汚れを取り除くのに使います。右側のタングステンナイフも同様に使います。右端の物は極細の待ち針を装着していますが、先端の細さはピカイチですから細かな汚れの除去には欠かせません。

その他クリーニングツール類

更にその他のツール類。左端のグラスファイバーペンは軽い汚れの除去に重宝しています。それ以外の物は適宜汚れの程度や種類に合わせて出番のある鋭利な物たちです。先端の形状を様々揃えておく事で汚れの除去に対するアプローチの幅が広がります。

細部まで綺麗にしようとすると、様々な状態の汚れに遭遇します。これら汚れの種類によっても有効なツールとそうでないツールが出てきますので、この辺りは経験を積みながら道具を揃えていく他ありません。

しかし汚れが完璧に取り除かれたローマコインの美しさには目をみはるものがあります。

完璧にクリーニングしたローマコイン

時にローマコインのクリーニングはアートだと言われることがありますが、あながち間違いではないでしょう。細密な手作業によるものなので化学薬品で綺麗にするより遥かに手間がかかりますが、薬品による潜在的なリスクがなくここまで綺麗にされたローマコインは小さなサイズのブロンズコインだったとしても一定の価値が生まれます。

1500年以上の時を経て当時に近い状態にまで蘇らせたローマコインは正に芸術品。そこにはクリーニングする人のスキル次第という部分が大きいですが、挑戦してみる価値はあるかと思います。

しかし専門的なクリーニングツールは扱いが難しいです。力加減を間違えるとコイン自体に傷をつけてしまう事もあります。慣れないうちはもしかすると何枚もコインに傷をつけてダメにしてしまうかもしれません。

「そこまではできないな」と思った方はStep1〜Step5までを繰り返してください。根気さえあればそれでもある程度までは綺麗にできるはずです。

パティーナ(緑青)は残しましょう

ローマコインは物によっては経年によるパティーナ(緑青)と言われる一種の錆が、部分的または全体的に発生している場合があります。

パティーナを残してクリーニングが完了したローマコイン

このパティーナはコインの表面に皮膜を作って保護する効果や抗菌効果が認められており、クリーニングの過程でこれは残しておくものです。過度なクリーニングをする事でパティーナ自体も消してしまう事は可能ですが、パティーナが剥ぎ取られた痕跡は必ず残りますしそれが認められるローマコインの評価は著しく下がるので注意してください。パティーナは歴史そのものであり、これが付着している事はローマコインの価値を下げるどころか寧ろ高めてくれます。

またパティーナ(緑青)は読んで字の如く青緑色の物が多いですが、ローマコインが地中に埋まっていた環境(土、砂、海など)によっては赤や茶、黒といった色味の緑青も存在します。従って青緑色ではないからと言って異なる色味のパティーナを無理に剥ぎ取らないようにしてください。※付着している物がパティーナなのか単なる汚れなのかを見極めるのもスキルのひとつです。

上の画像上段の5枚は中東の砂漠地帯で出土したコインです。この様な外観のローマコインは、褐色の部分を指して「サンドパティーナ付き」と呼ばれていますがそれは大きな間違いです。白っぽい褐色から褐色そして赤褐色まで色は様々ありますがこれらはただの砂が固着した物に過ぎずパティーナではありません。むしろその下に隠れている黒色に変化したコイン表面こそがBlack Patinaと呼ばれるパティーナの部分です。日本国内のコイン商やオークション出品者でも褐色の部分を指して「サンドパティーナ付き」と言う方が居る様ですが、繰り返しますが褐色の部分は単なる砂汚れです。

砂漠地帯の一定の条件を満たしたコインにしか褐色の砂が固着する事はありませんが、この様にハイポイント(図案や伝説の最も隆起している部分)だけをクリーニングして他は固着した砂を残す事で、黒色パティーナで覆われたコイン表面とその上の褐色の砂が高いコントラストを生み出します。出土したコインをひとまとめにして化学薬品に放り込む通常の洗浄ではこうした砂汚れも根こそぎ剥ぎ取られてしまいますが、手作業ではこの様に1枚1枚のデザインが引き立つようなクリーニングが可能です。そしてこうしたテイストのコインは、カラーコントラストの美しさと手作業でクリーニングされている点で欧米のコレクターにも非常に人気があります。

※人気があるのでこのテイストのコインの偽物も多く出回っています。化学薬品で洗浄した図案すら溶かされて残っていないようなコインに接着剤を塗布してから砂をまぶす。これだけでそれっぽいコインが出来上がります。ご注意ください。

中段や下段のコインは1枚1枚をクリーニング前に見分し、適宜パティーナを残した形で作業完了したコインたちです。写真ではわかりにくいですが基本的には全体を覆ったパティーナは残しつつディテールそのものは細部まで見える様にと、プロのスキルが光るオーソドックスなクリーニング方法です。

サンドパティーナを残してクリーニング完了したコイン

こちらも私が砂漠地帯特有の固着した砂で覆われた状態で出土したローマコインを、ディテールだけ見える様にハイポイントを中心にクリーニングしたコインたちです。適宜砂汚れを残すことで図案を立体的に見せてくれ、非常に美しい印象に仕上がりますので私も大好きです。

ルネッサンスワックスについて

RENAISSANCE WAX通称REN WAXと呼ばれるコーティング剤が存在しているのをご存じでしょうか。

ルネッサンスワックスの外観

こういう外観です。

ルネッサンスワックスの中身

蓋を開けるとこんな感じです。

これはクリーニング後にコイン表面を保護する目的として販売されている物ですが、化学薬品によって洗浄されたコイン専用です。

何せ化学薬品による洗浄は強酸による表面破壊ですから天然の保護膜であるパティーナも破壊します。つまり”コインを腐食から守る物が何もない”状態になりますので別途ルネッサンスワックスを塗布しなければなりません。

因みにこのルネッサンスワックスは、これまでに化学薬品による洗浄で何万枚もの古代コインをダメにしてきている大英博物館が考案しています。化学薬品で痛めたコインの保護には確かに有効かもしれませんね。

一方手作業で1枚1枚丁寧にクリーニングしたコインには天然のパティーナがありますから、わざわざルネッサンスワックスを塗布する必要がありません。ですのでこのページをご覧の方は間違ってもルネッサンスワックスを購入しないでください。

私は一度このルネッサンスワックスを購入してみた事がありますがとにかく臭いです(上の2枚の写真は私がかつて購入した物です)。シンナーに似た強烈な臭いですし、こんな物をコインに塗布したら”生涯嫌な臭いのするコイン”になってしまいます。室内で蓋を開けたのでその後しばらくは部屋自体がシンナー臭かったです。

現にセルビアやイスラエルと言った私が現地で教えを請うたプロのコインクリーナーは誰一人としてルネッサンスワックスを使っていませんし、むしろルネッサンスワックスも化学薬品なので天然パティーナの上から塗布した場合はパティーナをも破壊します。

あくまでも”既に化学薬品で表面破壊されたコインがこれ以上痛まない様に”する為の物であるとお考えください。

異臭漂うローマコインが欲しいと言うのなら話は別ですが、手作業でクリーニングしたコインには天然のパティーナがあるのでルネッサンスワックスは不要です。

既に手作業でクリーニングしたローマコインにルネッサンスワックスを塗布してしまった場合は速やかにルネッサンスワックスを除去してください。そのまま放置するとルネッサンスワックスが天然のパティーナを破壊してしまいます。パティーナの破壊のみならず、コインをどす黒い色に変色させる事も報告されています。

しかし水洗いや洗剤で洗う程度でルネッサンスワックスの除去は無理なのでアセトンに浸す必要があります。アセトン以外でルネッサンスワックスの除去はできませんのでご注意ください。

蛇足ですがルネッサンスワックスを塗布する事でコイン表面に照りが発生しますが、手作業で磨いた(仕上げた)コインに出る照りとは比べるべくもありません。ルネッサンスワックスが塗布されたローマコインの照りはギラギラと脂ぎった感じの照りになります。ワックスですからある意味当然です。しかし手作業で磨き上げられたローマコインの照りは天然のパティーナによってふっくらつやつやとした優しい照りになります。

「ルネッサンスワックスは必要ですか?」と言う質問を頂いたので追記しました。

よくある質問

未洗浄のローマコインをクリーニングするにあたって、疑問に思いそうな点をQ&A形式でまとめてみましたので参考にしてください。

オリーブオイルは使わないんですか?

オリーブオイルは一説ではコインに付着した汚れを柔らかくする効果があると言われていますが、わずかに酸性ですので汚れに加えてコインそのものにもダメージを与える恐れがあります。ネットで調べると様々な意見が飛び交っていますが確たるところは言えないので私は使わないようにしています。何よりオリーブオイル臭がしてどろどろになった状態のコインに触ろうと思えません。

もっと早くて簡単なクリーニング方法はありませんか?

化学薬品や電気分解と言った方法は一度に大量のコインを素早く洗浄できます。しかしながらいずれの方法もコインが将来的にダメになる潜在的なリスクを抱えている事になるのでおススメしません。

こうした洗浄方法は、早く大量に売りさばく必要のある業者が採用している方法です。業者としては如何に素早く洗浄して売りさばくか?が日々の収入に影響しますし、いちいち末端のコレクターの事まで考えていません。ディーラーに売れさえすればそれでいいのです。そして残念な事に現在の市場で流通しているローマコインやギリシャコインは、殆どがこうした過度な洗浄でクリーニングされた物です。

今現在綺麗に見えても、その後内部からボロボロに崩壊するかもしれないコインを大事にコレクションしたいと思いますか?そう思わないのであれば安易なクリーニング方法は実施しない事です。

「素早く綺麗に」を望むのであれば、実体顕微鏡と私が使っている様なツールそしてプロ並みのスキルがないと無理です。免許取り立ての初心者ドライバーがF1レースに出ても優勝できないのと同じこと。その点蒸留水を使う方法は、時間はかかりますがある程度のレベルまでのクリーニングなら誰にでもできる方法です。

蒸留水の代わりに水道水ではいけませんか?

水道水にはなく蒸留水にはあるミネラルがコインに付着した汚れを柔らかくしてくれるようですので、水道水にどれだけ長く漬けていても汚れが柔らかくなる事はないので意味がないでしょう。

真鍮製のブラシは使えますか?

硬い或いは厚い汚れが付着している部分には有効ですが、力加減を間違えるとコイン自体に傷をつけかねませんのであまりオススメはできません。ブロンズやシルバーまたはゴールドよりも硬い金属を使えば傷がつくと考えてください。もちろん歯科用ピックなどでも傷をつける恐れがありますが、これらは細やかな作業で使うので慣れればコインに傷をつける事はありません。しかし金属製のブラシ類は全体を一気に擦るのでコインに簡単に傷をつけてしまいます。

超音波洗浄機はどうでしょうか?

業務用の高額な設備を使えばある程度綺麗になる事は報告されていますが市販レベルの機材には期待しない方がいいでしょう。そして超音波洗浄もパティーナを破壊する可能性があります。パティーナが破壊されたコインの価値は天然パティーナに覆われた物よりも著しく価値が下がります。

価値を保全したままで綺麗にしたいのであれば、全て手作業で慎重に行うのがもっとも優れた方法です。

未洗浄ローマコインクリーニングのまとめ

とにかく、短気は損気です。

忍耐強く気長に構えて、時間のかかるものだとわかった上で取り組んでみてください。でも冒頭で書いたように汚れを取り除いた後のローマコインの表面に触れた人は、そのコインが埋められてから以降では貴方が人類初です。もしかするとそのコインは、1500年以上も前から貴方に触れられるのを待っていたのかもしれませんね😁

そして一番大切なのはクリーニングそのものを楽しむ事です。趣味ですから楽しまない手はありません。

自分の手で綺麗にしたローマコインをコレクションするというのも、お金さえ出せば買える物を手早く集めるだけよりもまた違った楽しみがあろうかと思います。

昨今イタリアやギリシャで出土したローマコインの国外持ち出しが禁止されているとかで、程度に関わらず流通量自体が少なくなってきています。私が繋いでいるパイプもいつまで持ってくれるかわかりませんが、未洗浄のローマコインが入手できている限りはこの優雅な趣味を楽しみ続けたいと考えています😁

ローマコインのクリーニング風景を動画で配信中です

Youtubeのヤングスタンプ公式アカウントで、ローマコインのクリーニング風景を動画で配信しています。

文字や写真だけでは分かりづらい部分もあるかもしれませんので是非一度ご覧ください😁

ヤングスタンプ公式チャンネルは上の画像をクリック!

私の動画では主にクリーニングの最終段階、実体顕微鏡を使った作業風景を公開しています。

その前段階であるブラッシングについても撮影する事はありますが・・・結構力を入れてゴシゴシとこすった際に机と共に撮影機材も揺れるので基本的に撮っていません。何よりブラッシングは単調な作業ですし動画を見ずとも想像できる範囲かなと思います。

ローマコインのクリーニングも最終的には経験が物を言う作業です。とにかくたくさんのコインに触れて、ここまで解説してきた方法でクリーニングを実践してみてください。繰り返しクリーニング作業をする中で独自の技術や知見を得られる事と思います🌝

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • いつも、コインを購入させていただいています。最初に購入したスペインのコインを簡易クリーニングをしたらあまりにもきれいなので、本格的なクリーニングに挑戦します。このサイトで紹介されているものでおすすめがあったら教えてください。
    〇ダイヤモンドコーティングされたピンとピンバイス
    〇4歯科用ピック
    〇ダイヤモンドコーティングされた極細丸ヤスリ
    〇極細彫刻刀
    〇クリーニング用コンポジットペン
    〇蒸留水
    また、オスマントルコの銀貨は、特に手入れをしていないのですが、銀磨きクロスの手入れはやめた方がよいでしょうか。

    • お世話になります。
      ブログにコメント頂いている事に気づくのが遅くなりまして申し訳ございません。
      書かれている中でおススメはダイヤモンドコーティングされたピンとピンバイスです。後は歯科用ピックもあれば重宝するかもしれません。
      彫刻刀は扱いが少々難しいので一旦見送りでも良さそうです。コンポジットペンは要らないと思います。
      蒸留水はマストです。

      銀磨きのクロスで銀貨を磨いた事がないのでなんとも言えません。通常銀貨の洗浄にはアンモニアを使いますが、なければレモン汁でもいけるかと思います。

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