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未洗浄古代ローマコインの完全クリーニング(洗浄)ガイド

はじめに

未洗浄のローマコイン(手前)とクリーニング後のローマコイン(奥)
未洗浄のローマコイン(手前)とクリーニング後のローマコイン(奥)

土の下で誰の目にも触れる事なく1500年から2000年以上も眠っていた古代ローマコインを綺麗に掃除して現代に蘇らせる。

なんと創造的な響き。そして意義と価値のある歴史修復プロジェクトでしょうか。

これまでに延べ1万枚以上の古代ローマコインをクリーニングしてきたヤングスタンプの店主が、傷をつける事なく綺麗に掃除する方法を徹底的に解説したのがこのガイドです。

是非このガイドを読んで、正しい知識とやり方で古代ローマコインのクリーニングを楽しんでください。

そしてこのガイドは古代ローマコインだけではなく、ギリシャやビザンチンのコインの他、数多のアンティークコインにもそのまま当てはめてお使い頂けます。

ここで解説しているのは”趣味として”ブロンズコインを最も安全にクリーニングする為の方法です。安価な道具と少しの準備で気軽に始められる事に重点を置いた内容です。

NGCやPCGSがアメリカモダンコインの初心者コレクター向けに作ったのがスラブ。そんなスラブに入れられた古代ローマコインと言うものがありますが、NGCやPCGSは古代コイン全般で贋作を本物と誤鑑定した上でスラブに入れ市場に流通させたり、本物を贋作と誤鑑定してスラブに入れなかったという事を多々発生させています。詳しくはこちらの『NGCスラブと古代コイン評価について』の記事で詳しく解説していますが、当店ではスラブと言うプラスチックケース越しではなくもっと気軽に古代ローマコインに触れて頂き、歴史を直に手に取る楽しみを知って頂きたいと考えています。

そもそも古代ローマコインはどこから来るのか?

クリーニング後のローマコイン
クリーニング後のローマコイン

古代ローマの時代には銀行や金庫といったものは存在していませんでした。

従って各家庭や一族はアンフォラと呼ばれる壺にせっせとコインを貯めて(貯金して)、それを地中に埋めて隠していました。もちろんこうした小さな規模ではなく、遺跡から大規模に見つかるローマコインもありますが、基本的に埋めて隠すというのが当時の主流だったようです。

そしてそれは戦場に出ていた兵士も同じ事。現地で給料として支払われたローマコインをジャラジャラと身に着けたまま戦いに出る事はしませんから、駐屯地や野営地付近で各自が埋めて隠していました。もちろん祖国に引き上げる際には掘り出して持ち帰るつもりでしたが、戦死した兵士が隠したコインは今も地中深くに埋まったまま発掘されるのを待っています。

さて、発掘されたコインはどういう流れで一般人の手に渡るのでしょうか。ここでは出土以降の流れを書いてみたいと思います。

①一番良いものは国が接収

ローマコインを発掘したとしてもそれが全て発掘者の物にはなりません。出土したコインや遺物はまず国に届け出る必要があり、届け出されたコインは国(博物館など)がめぼしい物(歴史的に価値のある物)を接収した上で残りが発掘者に戻されます。

②卸業者が買い取り

国に中抜きされたコインは発掘者の手に戻ってきますがそれらは卸業者が買い取ります。この道ウン十年という目利き揃いの卸業者は汚れたままのコインから、価値のあるコイン(主に金貨や銀貨そして希少な銅貨など市場流通価格が下は数十万円クラスから上は数億円クラス)と一般的なコインに選別してそれぞれをコインクリーニング業者に依頼して洗浄します。※卸業者の選別は汚れたままのコインであれどかなり正確です。どんな機械或いは手段を用いているのかはトップシークレットなので知る由もありませんが、彼らは未洗浄状態のコインから超級品を確実に選別します。

③コインクリーニング業者にて

卸業者が”価値がある”と判断したコインについては、プロのコインクリーナーが丁寧な手作業で1枚1枚を綺麗にクリーニングします。一方で一般的なコインは時給100円程度の低賃金で雇われた労働者が、強力な酸などの化学薬品を使ってひとまとめにクリーニングします。時には電気分解という水中に沈めたコインに通電する事で汚れを剥離させるという洗浄方法も使いますが、実際には焼かれているので黒く変色しディテールも損なわれてしまい、化学薬品洗浄と並び劣悪な洗浄方法の代名詞となっています。そんなこんなで手作業で綺麗にされた価値あるコイン、化学薬品(または電気分解)でクリーニングされた一般的なコインは卸業者に戻されます。

④卸業者が再び選別

プロのコインクリーナーが手作業でクリーニングした価値あるコインは卸業者から超富裕層や各国の王族と言った所謂VIPに販売されます。一方、ひとまとめに化学薬品で洗浄されたコイン(一般消費者向け)は更にその下の卸業者やディーラーに販売されます。

⑤やっとこさ一般市場へ

いくつかの卸業者やディーラーを経由したコインは最終的に小売業者に販売されます。コインを仕入れた小売業者は店頭に並べもしますし或いはネットで一般層に向けて販売します。金貨であれ銀貨であれ銅貨であれ、これが普段私たちが目にするコインです。

バルカン半島や中東或いはヨーロッパで出土したコインは基本的に全てこの流れで流通していますが、ここに大きな問題点があります。

一般の市場に流通しているコインは超高価な物を除けば殆どが化学薬品で洗浄されているという点です。これはスラブに入っていてもいなくても同じで例外はありません。パッと見綺麗に見えたとしても内部にまで染み込んだ化学薬品は、その後何年何十年か先に腐食が進んで崩壊させるかもしれないと言う潜在的なリスクを抱えています。

私はそういう潜在的なリスクが嫌だった事もあって、セルビアや中東諸国のプロコインクリーナーから未洗浄コインのクリーニング方法を現地で学びました。プロのコインクリーナーからその技法を学んだ日本人は日本広しと言え恐らく私だけな気がします。凝り性もここまでくるともはや病的かもしれませんね。

細部のディテールまで蘇らせたブロンズコイン
細部のディテールまで蘇らせたブロンズコイン
極美品以上にまでクリーニングしたシルバーコイン
極美品以上にまでクリーニングしたシルバーコイン

上の2枚の画像に写っているコインはいずれも泥と汚れにまみれた状態で卸業者から買い付け、私が手作業でクリーニングしたコインです。クリーニングスキルも上達すると極美品クラスを超える強烈なディテールすらこうやって蘇らせる事もできます。

これからレクチャーするクリーニング方法はプロの使うそれとは若干異なります。あくまでも安価ですぐに揃う道具で、手軽にしかも安全にコインクリーニングを実践する事を目的として書いています。もちろん根気よくやれば細部のディテールまでかなり明らかにできるようになります。是非頑張ってみてください。

コイン探索記(発掘作業の様子)

セルビアのビミナシウム遺跡近郊にてローマコイン探索と発掘の様子
セルビアのビミナシウム遺跡近郊にてローマコイン探索と発掘の様子
金属探知機を使いながら延々歩き続けます
金属探知機を使いながら延々歩き続けます
掘り出したコインを手に取ったらドゥポンディウスでした
掘り出したコインを手に取ったらドゥポンディウスでした

当店で取り扱っている未洗浄コインは出土したての本物の未洗浄コインです。

セルビアやイスラエルなど古代ローマコインが豊富に出土する国や地域で、遺跡発掘を一手に取り仕切っている現地業者から出土したばかりの物を買い付けする事が可能です。

基本的には任せていますが、コロナ禍になる前はセルビアを始めイスラエルなど、私自身も現地に赴き発掘作業に加わっていました。コロナ禍が収束すればまた足しげく通うかもしれません。

写真は私が以前セルビアに訪れた際、金属探知機を使ってローマコインを掘り出す作業を一緒に行った時に撮ったものです。

因みに出土したばかりの未洗浄ローマコインはいつもこの様に書留で現地から送ってもらっています。

セルビアから届いた未洗浄コインのロット
セルビアから届いた未洗浄コインのロット
セルビアから届いた未洗浄コインのロットを開封中
セルビアから届いた未洗浄コインのロットを開封中

さて、そろそろ本題に入りましょう。

未洗浄の古代ローマコインを手に入れたら、以下のガイドに沿ってクリーニングを実施する事をおすすめします。ここに書いている方法が最も安全でダメージを与える事なく綺麗にできる方法だからです。

まずは最低限必要な道具を揃えてください。

ローマコインクリーニングに使う歯ブラシ、綿棒、竹串
ローマコインクリーニングに使う歯ブラシ、綿棒、竹串

未洗浄のローマコインをクリーニングするのに最低限必要な道具は下記の5つです。

  1. タッパー(3個)
  2. 蒸留水(2リットル程度)
  3. 硬めの歯ブラシ
  4. 綿棒
  5. 竹串

どれもホームセンターや薬局で買えるものばかりですし、面倒ならアマゾンでも揃います。

タッパーは密閉式のものを用意してください。歯ブラシは毛が硬めのものが良いでしょう。写真ではちょっとわかりにくいかもしれませんが、毛先は半分ぐらいの長さにハサミで切り落としておいてください。

実践!古代ローマコインのクリーニング

蒸留水に浸したローマコイン(左)
蒸留水に浸した古代ローマコイン(左)

①まずはブラッシング

最初は乾いた状態のコインに付着している汚れをブラッシングで取れるだけ取りましょう。

ブラシ類
ブラシ類

私が愛用しているブラシたち。上からPerio II H、KENT。この2本は超硬めの歯ブラシです。そして木の柄のブラシは無印良品で売っている毛の柔らかい多目的ブラシ。

この3本を駆使して表面の汚れをできるだけ落としましょう。毛が硬い方が汚れが落ちやすい様に思うかもしれませんが、案外そんな事もありません。ですので毛の柔らかいブラシも適宜使ってみてください。

②ぬるま湯で洗う

乾いた状態でのブラッシングが終わったら、1枚1枚のローマコインにまだ付着している汚れがどの程度のものかを把握しましょう。

風呂場などで洗面器にお湯を張り、ローマコインをそっと入れてください。その時食器用洗剤を数滴お湯に混ぜておけばより効果的です。

10分〜20分置いた後で1枚1枚取り出して流水の下で歯ブラシでこすります。食器用洗剤を使った場合は洗剤が残らないように注意してください。

そこそこ力を入れてゴシゴシとこすっても大丈夫です。

③乾かす

洗ったローマコインは風通しの良い場所に24時間程置いて乾かします。両面乾かす必要があるので適宜裏返してください。

④汚れの度合をチェックする

コインが乾いたら汚れの程度をチェックします。

左から汚れの激しいもの、うっすら図案が見えているもの、ほぼ図案が見えているもの
左から汚れの激しいもの、うっすら図案が見えているもの、ほぼ図案が見えているもの

こんな感じで、汚れの激しいもの、薄っすらと図案が見えているもの、ほぼ図案が見えているものの3グループに分けてください。

⑤蒸留水に漬ける

グループ分けしたコインごとにタッパーに入れ、ヒタヒタになるまで蒸留水を注いでください。

蒸留水に浸したローマコイン
蒸留水に浸したローマコイン

この様にローマコインが完全に水没するまで蒸留水を注ぎます。そしてタッパーに蓋をして、ひとまず1週間放置しましょう。

尚、蒸留水に漬ける事によって汚れが自然に剥離してくる場合がありますが、その時は蒸留水が汚れるので適宜交換してください。ですので1週間放置とは書いていますが日に1回はタッパーの蓋を開けて蒸留水が汚れていないかどうかチェックしてください。

⑥歯ブラシでクリーニングする

1週間経ったらタッパーからコインを1枚づつ取り出して歯ブラシでこすります。

汚れが飛び散るかもしれないのでウエスなどの上でやるのが良いかもしれません。

クリーニング中のローマコイン
クリーニング中のローマコイン

この時、竹串や綿棒でもこすってみてください。

汚れが蒸留水によって柔らかくなっているなら竹串でごそっと落ちるかもしれません。また綿棒でこする事で落ちる汚れもあります。

これらを使いこなしてゴシゴシとクリーニングし、ある程度汚れが落ちたのではないかと思えたら風通しの良いところに24時間置いて乾燥させましょう。

乾燥させてからコインをチェックし、満足の行く結果が得られて無ければ延々と同じ事の繰り返しです。

以上が未洗浄古代ローマコインの基本的なクリーニング方法です。

この作業で最も必要になるのは”忍耐”です。

汚れが軽微なものは近いうちに図案が見えてくるでしょうし、汚れがひどいものは年単位の時間がかかるかもしれませんが、この作業は気長にやるというのが最もローマコインに与えるダメージが少ないです。

クリーニング終了の目安

ローマコインのクリーニングの終了地点は、貴方がどこまで綺麗にすれば満足するのか?という点に尽きます。

貴方がクリーニングの結果に満足した時がそのコインのクリーニング終了となりますが、ひとつの目安としては細部まで識別できる事という点になろうかと思います。

2枚のクリーニング済みローマコイン
2枚のクリーニング済みローマコイン

上の画像は2枚ともクリーニング済みのローマコインです。

左側のコインはまだ汚れが残っていますが、それでも細部は明らかになっているので十分に識別は可能です。一方で右側のコインは汚れが全く無い状態にまでクリーニングされています。

どちらが良いのか?については完全に個人の好みの問題ですが、歯ブラシと綿棒それに竹串では左側のコインのレベルにまでしか綺麗になりません。

右側の”汚れが何もない状態”にまでクリーニングする為にはより高度な技術が必要になってきますが、やるだけの価値はあるかもしれません。細かなディテールが残ったコイン程、より綺麗にする事で美術館に所蔵されるレベルの美麗さを取り戻す物が多々ありますから。

ただし全く汚れがない状態にまでローマコインをクリーニングする為には、かなりの熟練したスキルと根気が必要になります。

更にクリーニングする場合

全く汚れがない状態にまでクリーニングしたいという場合は、別途更に機材が必要になります。

因みに私は蒸留水の工程は全て飛ばし、未洗浄コインのクリーニングはいきなりこの段階から行っています。最初にざっくりとブラシで汚れを落としたら後は実体顕微鏡とツール類で仕上げまで一気に行います。”全く汚れがない状態にまで”と書きましたが、適宜汚れを残したまま仕上げる時も同様に最初から実体顕微鏡を使っています。

蒸留水から入る工程はあくまでも入門編であり、実体顕微鏡を使った工程は中級上級編と言うような塩梅になります。

必ず必要になる実体顕微鏡
必ず必要になる実体顕微鏡

実体顕微鏡は必須です。これなくして肉眼のみで完璧なクリーニングは不可能です。

ツールに関しては自身で色々と試して見て好みのツールをチョイスしてください。

硬め~柔らかめまで各種ブラシ
硬め~柔らかめまで各種ブラシ

私の場合はまずブラシ類。これらは実体顕微鏡でのクリーニングに入る前の簡易清掃及び実体顕微鏡を使ってのクリーニング中などあらゆる場面で使っています。左から超硬めの歯ブラシの毛先を乱切りした物、硬めの歯ブラシの毛先を乱切りした物、ナノブラシ、無印良品の多目的ブラシです。ブラシは硬めから柔らかめまで各種揃えておくと重宝します。

ピンバイスに装着した鋭利なピン
ピンバイスに装着した鋭利なピン

続いては実体顕微鏡を使ったクリーニングで最も使用頻度の高いツール類です。左から3本は先端をダイヤモンドコーティングしたピンで分厚い汚れを取り除くのに使います。右側のタングステンナイフも同様に使います。右端の物は極細の待ち針を装着していますが、先端の細さはピカイチですから細かな汚れの除去には欠かせません。

その他クリーニングツール類
その他クリーニングツール類

更にその他のツール類。左端のグラスファイバーペンは軽い汚れの除去に重宝しています。それ以外の物は適宜汚れの程度や種類に合わせて出番のある鋭利な物たちです。先端の形状を様々揃えておく事で汚れの除去に対するアプローチの幅が広がります。

細部まで綺麗にしようとすると、様々な状態の汚れに遭遇します。これら汚れの種類によっても有効なツールとそうでないツールが出てきますので、この辺りは経験を積みながら道具を揃えていく他ありません。

しかし汚れが完璧に取り除かれたローマコインの美しさには目をみはるものがあります。

完璧にクリーニングしたローマコイン
完璧にクリーニングしたローマコイン

時にローマコインのクリーニングはアートだと言われることがありますが、あながち間違いではないでしょう。細密な手作業によるものなので化学薬品で綺麗にするより遥かに手間がかかりますが、薬品による潜在的なリスクがなくここまで綺麗にされたローマコインは小さなサイズのブロンズコインだったとしても一定の価値が生まれます。

1500年以上の時を経て当時に近い状態にまで蘇らせたローマコインは正に芸術品。そこにはクリーニングする人のスキル次第という部分が大きいですが、挑戦してみる価値はあるかと思います。

しかし専門的なクリーニングツールは扱いが難しいです。力加減を間違えるとコイン自体に傷をつけてしまう事もあります。慣れないうちはもしかすると何枚もコインに傷をつけてダメにしてしまうかもしれません。

「そこまではできないな」と思った方は最初の基本的なステップまでを繰り返してください。根気さえあればそれでもある程度までは綺麗にできるはずです。

パティーナ(緑青)は残しましょう

ローマコインは物によっては経年によるパティーナ(緑青)と言われる一種の錆が、部分的または全体的に発生している場合があります。

パティーナを残してクリーニングが完了したローマコイン
パティーナを残してクリーニングが完了したローマコイン

このパティーナはコインの表面に皮膜を作って保護する効果や抗菌効果が認められており、クリーニングの過程でこれは残しておくものです。過度なクリーニングをする事でパティーナ自体も消してしまう事は可能ですが、パティーナが剥ぎ取られた痕跡は必ず残りますしそれが認められるローマコインの評価は著しく下がるので注意してください。パティーナは歴史そのものであり、これが付着している事はローマコインの価値を下げるどころか寧ろ高めてくれます。

またパティーナ(緑青)は読んで字の如く青緑色の物が多いですが、ローマコインが地中に埋まっていた環境(土、砂、海など)によっては赤や茶、黒といった色味の緑青も存在します。従って青緑色ではないからと言って異なる色味のパティーナを無理に剥ぎ取らないようにしてください。※付着している物がパティーナなのか単なる汚れなのかを見極めるのもスキルのひとつです。

上の画像上段の5枚は中東の砂漠地帯で出土したコインです。この様な外観のローマコインは、褐色の部分を指して「サンドパティーナ付き」と呼ばれていますがそれは大きな間違いです。白っぽい褐色から褐色そして赤褐色まで色は様々ありますがこれらはただの砂が固着した物に過ぎずパティーナではありません。むしろその下に隠れている黒色に変化したコイン表面こそがBlack Patinaと呼ばれるパティーナの部分です。日本国内のコイン商やオークション出品者でも褐色の部分を指して「サンドパティーナ付き」と言う方が居る様ですが、繰り返しますが褐色の部分は単なる砂汚れです。

砂漠地帯の一定の条件を満たしたコインにしか褐色の砂が固着する事はありませんが、この様にハイポイント(図案や伝説の最も隆起している部分)だけをクリーニングして他は固着した砂を残す事で、黒色パティーナで覆われたコイン表面とその上の褐色の砂が高いコントラストを生み出します。出土したコインをひとまとめにして化学薬品に放り込む通常の洗浄ではこうした砂汚れも根こそぎ剥ぎ取られてしまいますが、手作業ではこの様に1枚1枚のデザインが引き立つようなクリーニングが可能です。そしてこうしたテイストのコインは、カラーコントラストの美しさと手作業でクリーニングされている点で欧米のコレクターにも非常に人気があります。

※人気があるのでこのテイストのコインの偽物も多く出回っています。化学薬品で洗浄した、図案すら溶かされて残っていないようなコインに接着剤を塗布してから砂をまぶす。これだけでそれっぽいコインが出来上がります。ご注意ください。

中段や下段のコインは1枚1枚をクリーニング前に見分し、適宜パティーナを残した形で作業完了したコインたちです。写真ではわかりにくいですが基本的には全体を覆ったパティーナは残しつつディテールそのものは細部まで見える様にと、プロのスキルが光るオーソドックスなクリーニング方法です。

サンドパティーナを残してクリーニング完了したコイン
サンドパティーナを残してクリーニング完了したコイン

こちらも私が砂漠地帯特有の固着した砂で覆われた状態で出土したローマコインを、ディテールだけ見える様にハイポイントを中心にクリーニングしたコインたちです。適宜砂汚れを残すことで図案を立体的に見せてくれ、非常に美しい印象に仕上がりますので私も大好きです。

銀のブラシで仕上げましょう

古代ローマコインクリーニング最後の仕上げには通称”銀のブラシ”を使います。

バルカン半島や中東などでコインクリーニングを専門にしているプロのクリーナーは全員使っている小道具です。ただし門外不出。

ブラシの存在は大っぴらに公表されている訳ではないので、コインクリーニングをかじった程度ではその存在すら知る事がないでしょう。事実Youtubeには当店のこの記事を参考にしたと思しきコインクリーニング動画が他者からアップされていますが、銀のブラシについては一切言及していません。要はこんなブラシがあるだなんて知らないからです。

海外のコインクリーニングのページを調べても誰も言及していません。それぐらい秘匿された存在・・・しかし仕上げには欠かせないもの・・・それがこの”銀のブラシ”です。

”銀のブラシ”と現地のクリーナーも私も呼んでいますが、実際のところ素材は秘密です。一応ほぼ銀製とだけ書いておきましょうか。プロのクリーナー用に1本1本手作りで作られた特注品ですので正式名称もなければ既製品でもありません。世界的に見ても本当に少数しか存在していないプロのコインクリーナーだけが使う道具なのでネットで販売される事もありません。

通称銀のブラシ
通称銀のブラシ

古代ローマコインからパティーナを残し汚れだけを取り除いた最後の最後にこのブラシでコインの表面を優しく丁寧にブラッシングすると、パティーナがゆるやかに磨かれて独特の照りを生み出します。決して傷はつけません。つまり銅よりも柔らかい素材である銀をメインにしたブラシです。純銀ではなくパティーナを傷つけない硬さで銀以外の何かも配合されてブラシになっています(恐らく純銀だともろすぎて使えない為)。

当店が単品で販売しているクリーニング済みコインには独特の照りがあります。これは全てこのブラシで仕上げに優しく磨いているからです。

もちろんこのブラシがなければコインクリーニングが完了しない訳ではないのですが、1枚1枚のローマコインの価値を最大限高めるために私は使っています。

このブラシがあれば仕上がりの照りが全然違います。歯ブラシや実体顕微鏡を使って単に汚れを取り除いた物とは見た目の美麗さが段違いに異なります。つやつやと品の良い輝きを生み出す魔法のブラシです。銅貨のパティーナに見事な照り輝きを生み出すのはもちろん、銀貨や金貨においてもこのブラシで磨く事で素晴らしい輝きを生み出します。正に仕上げの為のブラシ。形状がブラシなのでディテールの細部にまで毛先が入り込み、人の手が届かない部分までしっかりと磨きをかける事が可能です。

ルネッサンスワックスについて

RENAISSANCE WAX通称REN WAXと呼ばれるコーティング剤が存在しているのをご存じでしょうか。

ルネッサンスワックスの外観
ルネッサンスワックスの外観

こういう外観です。

ルネッサンスワックスの中身
ルネッサンスワックスの中身

蓋を開けるとこんな感じです。

これはクリーニング後にコイン表面を保護する目的として販売されている物ですが、化学薬品によって洗浄されたコイン専用です。

何せ化学薬品による洗浄は強酸による表面破壊ですから天然の保護膜であるパティーナも破壊します。つまり”コインを腐食から守る物が何もない”状態になりますので別途ルネッサンスワックスを塗布しなければなりません。

一方手作業で1枚1枚丁寧にクリーニングしたコインには天然のパティーナがありますから、わざわざルネッサンスワックスを塗布する必要がありません。ですのでこのページをご覧の方は間違ってもルネッサンスワックスを購入しないでください。

私は一度このルネッサンスワックスを購入してみた事がありますがとにかく臭いです(上の2枚の写真は私がかつて購入した物です)。シンナーに似た強烈な臭いですし、こんな物をコインに塗布したら”生涯嫌な臭いのするコイン”になってしまいます。室内で蓋を開けたのでその後しばらくは部屋自体がシンナー臭かったです。

現にセルビアやイスラエルと言った私が現地で教えを請うたプロのコインクリーナーは誰一人としてルネッサンスワックスを使っていませんし、むしろルネッサンスワックスも化学薬品なので天然パティーナの上から塗布した場合はパティーナをも破壊します。

あくまでも”既に化学薬品で表面破壊されたコインがこれ以上痛まない様に”する為の物であるとお考えください。

まとめ

基本はとにかく焦らない事。早く結果を求めれば求めるほどにせっかくの古代ローマコインをダメにしてしまいます。趣味としてあくまでものんびりと時間のある時に手間をかけて楽しんでください。

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